#35
つたわるノート

支援職の皆さんへ書き手:森田汐生(アサーティブジャパン 代表)

この間、福祉の現場の人材サポートをしていらっしゃる方とお話をすることが何度かありました。今後福祉の現場では、団塊の世代の高齢化に伴って大量の人材不足になることが明らかです。しかしながら現場を支える「人」を育てることについては、時間的にも費用的にも難しい現状にあるということでした。そうしたお話を聞くたびに、私自身の経験を振り返って、日本の福祉の現場を何とか変えていけないものかと痛切に思います。

大学を卒業してから私の最初の仕事は、イギリスの精神医療の現場でした。駆け出しのワーカーである私を、その福祉法人は本当に時間をかけて「育てて」くれました。最初の2年間で、延べ40日にもわたる研修を受けることができたのです。精神医療の専門知識を学ぶというよりも、むしろ精神医療の現場に深くかかわる「プロの支援者」としての、人間力、応対力、洞察力、コミュニケーション力をつけることを最初の2年間でじっくり行いました。日本の他の福祉支援職の人と比べても、自分がどれほど恵まれていたかと痛感します。

イギリスにおける裾野の広く奥の深い「支援者の人材育成」の文化とスキルを、なんとか日本に持って帰れないだろうかと思ったことが、実は私自身がそもそもアサーティブトレーニングを開発していこうと思った背景にあります。

対人支援を行う全ての人にとって、率直で対等なコミュニケーション能力を身につけることは必須の条件です。現場で利用者やクライエントさんと向き合う時のコミュニケーションだけではありません。ソーシャルワーク(Social Work)という、文字通り「社会に働きかけ社会を変えていく仕事」を、誇りと勇気をもって行うための土台となる力です。

ワーカーの仕事の重要な柱に、支援のあり方をめぐって様々な立場や職種の人と連携・調整をすることがあります。同時に、現場の問題をきちんと把握し、課題を明らかにして、社会に発信していく力も求められています。現場の実態やニーズを把握し、制度や法律を変えていく力にしていくこと。日本ではそれほど重要視されていませんが、これは「ソーシャルワーク」の本来の力ではないかと思います。

残念ながら現場の支援者を対象としたアサーティブネス研修は、抱え込みすぎて燃え尽きないために「ノー」と言ったり、後輩を上手に注意したりする範囲にとどまっています。本来の、社会に働きかけていく発言の力をつけるには、まだまだまだまだ長い道のりです。それでも、現場の人が支援のプロとして力をつけていくことで、福祉の全体の質の向上が可能になっていくのだと思います。

予算も時間もない現場で、それでも熱意と希望をもって仕事をしていらっしゃる多くの支援者の皆さま。まずは何よりもご自分を大切に、自分ができることとできないことを見分けてながら、一つひとつ丁寧に声を上げていく力をつけていってください。福祉の現場は「人」が一番の財産。対人支援の基本は「人。人。人」。

私自身も何ができるか考えていきたいと思います。一緒に頑張っていきましょう。