2009/5/9 汐生の思い

別れは旅立ち

4月26日の夜、実家の父が静かに息を引き取りました。80歳でした。彼が息を引き取る数時間前まで、丸二日間一緒にいることができました。物言わぬ父に語りかけ、手を握り、体をさすり、そしてまた言葉をかけながら、心ゆくまでお別れをすることができました。

29日が友引だったので、翌日にお通夜、翌々日にお葬式を行いました。
お通夜の前には、納棺師の方に来ていただき、父の納棺の儀式を行っていただきました。納棺師さんには父の遺体を本当に大切に扱っていただきました。御棺に入った父は、少し若い頃の精悍な父に戻って安らかに眠っているように見えました。

納棺師さんの所作は厳粛で優しく美しく、そんな風に"旅立ち"の準備をしていただいたくことに、母も姉も私も本当に感動しながら見ていました。

お葬式は身近な親族だけの穏やかなものでした。出棺のとき、急に空が曇って雨が降りだし、まるで父がお別れをしているみたいだねとしみじみ語ったほどです。

父の葬儀の後、東京に戻ってから、映画『おくりびと』を観ました。何人もの方々のお別れの様子が父のときと重なり涙が止まりませんでしたが、やはり納棺師さんの美しい所作と死者を丁寧に扱う様子に、深々と頭が下がる思いでした。

とても印象的な映画でしたが、その中でも特に火葬場での言葉が心に残っています。
死とは"終わり"ではなく、旅に出るときの門である、と。

人間はいつかは死ぬ。死があるからこそ、食べることや愛することという生そのものが美しいのでしょう。生きること、愛すること、一生懸命に働くこと、おいしいものを食べること、沈黙すること、愛する人と語ること、一緒に歩くこと、音楽を聴くこと、それらすべてが映画では活き活きと描かれ、人間の生も死もすべて丸ごと愛おしいのだと心から感じることができました。

死ぬことは生きることであり、よりよく生きることがよりよく死ぬことでもあるのかもしれません。私たちはいつ死ぬかもしれないからこそ、本当に今日一日を大切に、悔いのないように生きていきたいと改めて思います。一生懸命生きて、一生懸命愛して、そして一日一日を大切にして。

映画を通して見たたくさんの方々の死に顔と父の死に顔を思い出しながら、心から冥福を祈りたいと思います。