伝え方のヒントブック

実践編:
ポジティブな感情を伝えるコツ

ポジティブな感情を伝えるコツ

ほめることは、意外と難しい

ポジティブな感情を相手に伝えるときも、私たちはどう反応してよいのか、時に迷うことがあります。こんなことをわざわざ伝えてもいいのだろうか、言わなくてもわかってくれるよね、言葉で伝えるなんて照れくさい…など。


また、伝え方にも迷います。
たとえば、後輩をほめるとき、同僚にねぎらいの言葉をかけるとき、家族に「ありがとう」のひと言を伝えたいとき、冗談っぽくなったり、ぶっきらぼうな態度になってしまったりはしないでしょうか?


提出された報告書が、期待以上の内容だったときはどうでしょう。
「けっこういいじゃない。ま、あなたのレベルだったらこれくらいできて当然だけどね」と、上から目線でほめる。
「わあ~すごい。やっぱり○○さんですね。さすがぁ~。私なんて全然書けないのにやっぱりすごいですね」と、相手をほめちぎる。
あるいは、「さすが○○さんねぇ、やればできるじゃない。これくらいできるんだったら、これからは他のことも頼めるかもしれないわよね」と、斜に構えて皮肉を言う。


ほめるということは、簡単そうで、なかなか難しいものです。
アサーティブであれば、どうでしょうか。
“相手も自分も尊重する”という立ち位置から相手にほめ言葉をプレゼントします。自分を下に見たり相手を下に見たりせず、相手に対して、率直に誠実に対等に、自分のポジティブなメッセージを届けていくのです。

比較してほめない

アサーティブに相手をほめる時には、自分と比較したり、他人と比較したり、社会のイメージと比較したりしません。


「私にはできないのに、あなたは○○ができてうらやましい」
「さすが○○さんですね、他の人には絶対できませんよ」


これは、相手を持ち上げ、自分または第三者を低めることで、アサーティブな対等なほめ言葉ではなく、“お世辞”になっています。
お世辞を言われた相手は、「いやあ、そんなことないですよ。あなただってすごいじゃないですか」「私なんてたいしたことないですよ。あなたのほうができますよ」というように反応してくることがほとんどです。


社会のイメージと比較する場合は、もう少し厄介な問題を含んでいます。
「君を女にしておくのはもったいない」。これは、私の知人が新入社員時代に言われた言葉でした。彼女はその一瞬はほめてもらったのかなと思って喜びましたが、すぐにたいへんイヤな気持ちになったそうです。


「若いのにがんばってるね」。これも、若い人が年上の方からよく言われる言葉です。言葉の裏には、若い相手を少し見下しているところがあります。


ほかにも、「シングルマザーなのに、明るくて元気だね」「障がいがあるのに、がんばっているね」など、「〇〇なのに」というほめ言葉には、思いこみや決めつけがあります。
社会のイメージと比べたほめ言葉は、相手をステレオタイプで見て、自分のイメージに合わないことを「すごい」とほめていることになり、悪気はなくても、相手に対してたいへん失礼にあたる場合や、社会の差別を助長することになる場合もあるので、注意が必要です。

ほめるときは具体的に、自分の気持ちもプラスして

誰かをほめようとするとき、「すごいね!」「いいじゃない!」「さすが!」といった言葉(最近は「やばい!」もですが)で表現して終わることもありがちです。
もちろん、そうした感嘆符(!)の短いほめ言葉でも相手に気持ちが届くのですが、もっと具体的に伝えたほうが相手にストレートに伝わります。


「この間の会議、司会がんばったじゃない」という表現よりも、「この前の会議では、テキパキ議事の進行をして、みんなが発言できるように工夫してくれて、本当によかった。とてもいい会議になったわ。ありがとう」
というほめ言葉のほうが、ストレートに伝わってきませんか。


具体的に自分の気持ちを描写しながら相手に伝えると、私たちのポジティブな言葉は非常に具体的なメッセージとして相手の心に届きます。
また、「あなたってやさしいよね」「前向きだよね」「一生懸命だよね」という表現もよく使われますが、もう一歩踏み込んだ表現にすると、より相手に伝わります。相手の○○という特性を「自分はどう思っているのか」まで伝えるのです。


「あなたってやさしいよね。そこが私は大好きよ」
「君は前向きだよね。そこがいいところだと思う」
「一生懸命な姿勢が後輩にも伝わっていて、本当にすばらしいと思う」


こうした表現もちょっとした心掛けでできるようになります。語尾まで言い切ることを意識して言葉に出すようにしてみてください。

自分がほめられたときは、ちゃんと受け止める

誰かに自分の性格や行動についてほめられるとき、私たちの恥ずかしい気持ちが攻撃的に出てしまう場合があります。


「やめてよ! そんなの誰だってできるでしょ!」「別にたいしたことじゃないんから、いちいち言わないでよ!」など、相手の言葉を思いっきり否定してしまいます。


反対に、相手のほめ言葉を受け止められないまま、引いてしまう場合もあります。
「そんなことないです…。私なんて全然できませんよ…みなさんのほうがずっとすごいです」と言って後ろに下がり、自分を卑下して相手からのほめ言葉を否定するのです。
「だから、次も〇〇をやれって言いたいんでしょ」というように、相手の言葉に対して斜に構えた受け止めになってしまう場合もあります。


攻撃的、受身的、作為的。どれをとっても、相手のほめ言葉をちゃんと受け取っていませんし、ほめられたときの気持ちの対処ができないまま、相手を否定したり、自分を否定したりする結果になっています。

ほめられたときの私たちの気持ちとしては、「恥ずかしい」「照れる」などがあります。なので、恥ずかしかったり照れくさかったりしたら、そのまま素直に気持ちを言葉にすることをお勧めします。


「ちょっと恥ずかしいけど、でも嬉しいです。ありがとう」
「照れるなあ…。でも自分でもがんばったので、そう言ってもらえて嬉しいよ」。


相手のほめ言葉をまっすぐ素直に受け取ることで、私たち自身もすがすがしい気持ちになるのではないでしょうか。

実践編:きつい言葉も落ち着いて対応するコツ