伝え方のヒントブック

実践編:
きつい言葉も落ち着いて対応するコツ

きつい言葉も落ち着いて対応するコツ

耳の痛い言葉を受け止めるには、対処法を知る必要がある

批判への対処が難しいのは、「批判された」ことに伴う怒りやショック、自己嫌悪、嫌われた、失敗した、自分の能力が足りなかった、などの感情が大きく波立って、批判の言葉を受け止める前に自分の感情の波に足元をすくわれてしまうからです。


批判を受けること自体が許せず、相手を力いっぱい打ち返すのは、攻撃型。「バカなのはどっちよ!」「よくもそんなことが言えるな!」。批判した側はカウンターパンチをくらって黙るか、さらに攻撃をエスカレートさせます。


批判を受けないようひたすら逃げるか黙るかは、受身型。「いや、そんなことを言うつもりじゃ」と自分の意見を翻し、黙りこみます。そして心の中で批判を受けた自分を責めるのです。「やっぱり私が悪かったんだ」。


相手の批判のボールを受け取ることなく、相手にひそかに倍返しするのは、作為型。表立ってけんか腰になることはありませんが、心の中は相手への非難や不満でいっぱいです。すぐに言い返さず、その場では黙っていても、あとで批判を言った人の悪いうわさを流したり、CCメールで反論を展開したり、批判を言った人を無視するなどの態度や行動をとります。


いずれの場合も、相手の批判の言葉を受け取ってはいません。どのパターンも、批判をイヤなものとして目をそらそうとしているのがおわかりでしょうか。


批判に対して落ち着いて対処するための原則は、「批判=自分への全否定」ではないことを覚えておくことです。批判は、受け取り方によってはプレゼントにもなります。そう理解していると、相手の言葉に耳を傾け、自分も相手も責めず、適切に対処するのも難しくありません。

相手からの批判の言葉を聞いて受け止める

相手からの批判が飛んできたときには、「だって」「そうじゃなくて」「そんなことないよ」と打ち返すのではなく、まずは両手で受け止めましょう。
でも、これがいちばん難しい!


どんなに耳が痛くても、どんなに心の中で違うと思っても、腹が立っても、いったんは相手の言葉を受け止めて理解します。

覚えておくべきことは、批判を「受け止める」のであって、「受け入れる」ではないということです。受け入れてしまうと、“同意する”ことになります。同意するかどうか判断する前に、まずは「受け止める」。つまり、相手の批判に耳を傾けて、聴いたことを言葉と態度で示すということです。


批判を受け止めないとどうなるでしょうか。
相手はあなたに対するネガティブなメッセージをなんとか伝えたいと思っているので、あなたが受け止めるまでひたすらメッセージを伝え続けることになります。批判の矢は止まらないどころか、どんどんエスカレートしてしまうのです。そうなると非難の応酬となって問題解決には到底至りません。相手の言葉を受け止めない限り、批判の本当の問題は見えてこないのです。このことはぜひ覚えておいてください。


相手の立場を完全に理解することは不可能ですが、「本当に理解したい」「なぜそう言うのか教えてほしい」という姿勢を見せるだけで、相手の攻撃の矢は納まってきます。そうなればしめたもの。次の問題解決に進んでいくことができます。

批判に同意できるか否かを判断する

相手の言葉を受け止め、自分の感情を多少なりとも落ち着かせたら、次にやることは、その批判に同意できるかどうかを判断することです。当たっているものについてはちゃんと対処すべきですし、当たってないものについては、きちんと反論するか、まあここは聞き流しておこうと無視することもできるでしょう。


正当か不当かを見分けるには、「批判されてもいい領域」と「批判される必要のない領域」があることを知っておくといいと思います。


「批判される必要のない領域」とは、生い立ちや自分の信条など、“変えようのないもの”や誰からも触れてほしくないものに関することです。具体的には、「やっぱり一人っ子はわがままね」「そんなこと信じているの、バカみたいじゃない」「××出身だからあなたは○○ね」など。生まれもった骨格や体格も、この領域に入ります。ここに相当する批判は、相手の言葉に同意する必要はないと考えてかまいません。


「批判されてもいい領域」とは、私たちの行動や態度、考え方や言い方など“本人が変えることができる部分”に相当します。ここに批判の矢が飛んできたときは、それに同意できるかどうかは判断することができます。しっかりと相手のメッセージを聞きとって、実際に当たっているのか当たっていないのか判断し、適切に対処することが求められるのです。


批判へのアサーティブな対処法は、対処した結果、よりよい状況や人間関係を作っていくためにこそ使っていただきたいと思います。批判を怖がる必要はありません。アサーティブに言葉を受け取ることで、批判の矢を素敵なプレゼントにしてしまいましょう。

今のじぶんにOKを出す

私たちは子どものころから、親や友だち、先生から山のように批判を受けてきました。文字の書き方やテストの結果、体型や容姿にかかわるものもあれば、仕事上で上司からの否定の言葉、人格にかかわるようなきつい批判もあったと思います。


それらの言葉に傷ついた体験は、私たちの心の奥のどこかに今も残っています。そして大人になってからでも、その部分に触れるとチクチク、ひりひりするのです。その感情に目をつむって今は大丈夫と思っていても、昔の傷跡が何かの拍子に思い出されることはよくあることです。


中には「この言葉だけは言われたくない」という大きな地雷があり、心の奥のところどころに埋まっています。これを「心の急所」と呼びましょう。この急所については、自分にとって何が急所なのか自覚しておいてください。誰かがふとしたはずみで地雷を踏んでしまったときに、ものすごい喧嘩になったり相手への完全な不信感にとらわれてしまったりしないようにするためです。


過去傷ついた自分や失敗した自分も「それもOK」として認めて許し、自分に対する否定的なメセージを受け止めて、それでもちゃんと生きてきた過去の自分を認めてあげることで、相手からの思わぬ批判に対しても自信を持って対応する力がついてくるでしょう。

実践編:耳の痛いこともしっかり伝えるコツ