2016/5/12 出張から

等身大の人に勇気をもらう

先日アメリカで受けた研修の中で、とても印象的なビデオを観ました。

中学2年生の子どもたちの様子を撮影した、ドキュメンタリーです。

10代の子どもたちにとって「ピアプレッシャー(同質からの圧力)」は、本当に大きなものです。はねのけるには巨大なエネルギーが必要なる。それに直面するティーンズの様子を撮影したものでした。

実験はこんな風に進みます。

教室にいる二十数名の生徒たちは、3つの図形を見せられます。3つの選択肢の中にははっきりとわかる正解が一つあります。しかし、最初にサクラとして存在する数名の子どもたちが間違った答えを発表すると、他の生徒のなんと7割が、サクラの生徒と同じ答えを言ってしまうのです。違うということがわかっていても、です。

そこに、もう一人のサクラ生徒が出てきます。彼(彼女)は、誠実に、でもはっきりと「自分は違う」と発言します。3つの選択肢の中の正しい答えを示して「自分はこれだと思う」と発言するのです。

そのあとが面白い展開となります。

他の生徒たちにもう一度、「どれが答えだと思いますか?」と尋ねると、今度は次々と正しい答えを発言し始め、全体の9割の子どもたちがこれまでの意見を覆して正しい答えを出す結果になりました。

子どもたちにとってピアプレッシャーがどれほど大きいかということ示すビデオであると同時に、例え他の生徒と違っていたとしても自分の考えをはっきりと主張できる生徒が一人いれば、他の生徒たちも同じように自分の考えを伝えられるようになる、というビデオだったのです。

決して大声で居丈高に伝える必要もなく、正しさを証明するために説得調になる必要もなく、ただアサーティブに落ち着いて、「私はこう思います」と発言するだけ。性格がどうかという問題ではなく、自分の意見の伝え方は、学習することで身につく。その重要性を、改めてかいま見ることができました。

目に見えるモデルの存在はとても重要です。「自分の望みは○○だ」「自分は○○を求めている」と、等身大で表現する姿を間近で見ることは、本当に、本当に勇気をもらうことになる。

アン・ディクソンさんが来日した時に、「変化を起こすためには、私たちにはインスピレーションが必要だ」言っていたことを思い出します。インスピレーションとは、自分が刺激を受け、勇気をもらえる人やストーリーのことです。

私自身を振り返ってみても、アサーティブの原点はそこにあります。とても近しい友人が、権威ある人(その時は医師)に向かって、攻撃的でも受身的でもなく、自分の存在の権利を認識したうえで、誠実に対等に話をする姿を見たことが、私にとってのアサーティブを形作る象徴的な出来事となりました。その場の光景は20年近くたった今も、まざまざと思い出すことができます。

ひとが自分を信頼して立ち上がる姿を目の前で見ることは、「わたしも自分自身でいいんだ」と思えるきっかけと、「自分も発言してみよう」という勇気を与えてくれるものですね。それは、決して有名な人でも、地位や年齢の高い人や、学歴が高い人、経験が多い人のことではなくて、ごく普通の人が、自然にできていることが、周りを変えていく力になるのでしょう。

AJではそうした、身近なインスピレーションを与える人たちを増やしていきたい。

アメリカ滞在を通じて、さらに強く感じました。来週には総会があります。深い議論になるとよいなと、願っております。