2010/11/9 牛島のり子

戦場のようなからだ

こんにちは。アサーティブジャパン専属講師の牛島のり子(牛やん)です。

演出家の竹内敏晴さんをご存知でしょうか。残念ながら1年前の9月に亡くなりましたが、
竹内さんは、「からだとことばのレッスン」という独特の手法を使って、障がいを持つ人のためのレッスンや人間関係のありようを探るワークショップなどを数多く手がけられました。

その昔20年ほど前に、私は一時期、竹内さんが主催する竹内演劇研究所に通っていました。当時の「からだとことばのレッスン」で体験したさまざまなドラマを、今もなつかしく思い出します。

ある日のレッスン場で、皆で体ほぐしをしていたときのこと。
「おやおや、ひどい背中しているなあ~」という声と同時に、竹内さんが私の背中にすっと手を置いてくれました。
あたたかい、大きな手。
ふと、じんわりと涙があふれたかと思うと、寝転がったままあとからあとから涙が止まらなくなった記憶があります。

「あなたたちの背中は、まるで戦場のようだね」とおだやかにおっしゃいました。

そう。私たちのからだは、まるで戦場のようになっていました。
残業に次ぐ残業。展望の見えない仕事。殺伐とした人間関係。相手の顔色や周りの評価ばかりを気にして、声を出そうにも体が拒否しているかのように喉がちぢこまっていました。

言葉では「こんにちは!」と言いながらも、体全体が「あなたとは話したくない」と言っているようでした。もしくは、「ありがとうございます!」と言葉で言いながら、内心「ばかやろー!」と言っているような言葉とからだの矛盾を抱えて、私は途方にくれていました。

そんな自分自身のからだを静かにていねいにほぐしていくと、からだの深いところから泉のように声があふれてくるのです。それが自然に、偽りのない言葉となって相手にしっかり伝わっていく体験を、レッスンでは何度も経験しました。
自分自身のからだにやすらぐということが、こんなに深く豊かなことなのかと驚いたことを覚えています。

「からだはうそをつかない」。今でもそう思います。

そんな竹内敏晴さんとの出会いが、からだとこころのつながりに関心を持った大きなきっかけとなりました。その後私は東洋医学の道に進み、今はアサーティブネスに出会って、コミュニケーションにかかわる仕事についています。

一貫してこだわってきたのは「からだとこころ」のこと。

そして、いつしか私たちが「戦場のようなからだ」から、「人間らしい豊かでしなやかなからだ」を取り戻すこと、かもしれません。